屁理屈で国を勝たせた大阪高裁開廷前の写真撮影の時間に裁判長の表情を凝視していた。自身の信念に基づいていい判決を書いたと自負できるのであれば、少しはにこやかな顔をするかもと思ったが、そのようなことはなかった。開廷した後に、住民に逆転敗訴を告げる主文だけ述べて立ち去る背中に「理由は?」との大きな声が飛んだが、振り返ることもなかった。2020年12月、大阪地裁は「ばらつき」の検討を行っていないので、審査には「看過し難い過誤欠落がある」として、設置許可を取り消した。慌てた規制委は審査ガイドからその記述を削除したが、高裁の判断はガイドに記述があった時点での判断が適切だったかどうかだ。 やってないことをやっていたことにできない裁判所がひねり出した屁理屈は、経験式に入力する値に余裕を見て安全側に配慮しているから「ばらつき」も考慮したことにしようというものだった。 裁判所がまとめた判決要旨から引用する。「現在の科学技術水準において、経験式の有するばらつきについての考慮は必要であり、主要なパラメータを保守的に設定することにより考慮することが必要と考えられる」それでいいとする理由は、審査ガイドを作成した学者から出された意見書や、ばらつきの考慮方法についての記載がガイドには書かれていないことなどだ。 しかし、ばらつきの考慮とパラメータの設定を保守的(安全側)にすることが別の問題であることは、裁判所自体が一番よく分かっている。判決文には次の記述がある。「断層パラメータの不確かさと、経験式の内包する実際のデータとの乖離であるばらつきは、これらだけを取り出すと異なる概念と言い得る」 裁判で敗けたからと言って後からルールを変える国と、屁理屈をひねり出して国を無理やり勝たせる裁判所。これでは第2第3の大事故を防ぐことが出来ない。 (参考)判決要旨 都合の悪いガイドを改悪して訴訟対策する規制委員会ルールで決められたことをやっていないと裁判で指摘されたが、過去にさかのぼってやったことにはできない。それならルールを変えてしまえという、とんでもないことを規制委員会が始めた。大阪地裁判決で厳しく指弾された耐震設計審査におけるばらつきの考慮である。2022年2月24日に開催された規制委員会では、「基準地震動等審査ガイドの改正案について」が議題とされ、さっそく3月26日を締め切りとするパブコメが開始された。そして、6月8日にガイドの改正が行われてしまった。 ガイドの変更では、「震源特性パラメータの設定」という項目自体を無くして他の項目に潜り込ませ、問題となった「経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある。」という記述を削除している。 更田委員長は記者会見で「削除というより、本来の意図に、より分かりやすく書き直したのであって、相関式の使い方も、ばらつきの考慮の仕方も、不確実さの考慮の仕方も、何一つ変わるわけではない。」と言い訳をしているが、大阪地裁判決の判断を踏まえて改正したのかと問われて「必ずしもそれだけではない」と否定できていない。 (参考)脱原発弁護団全国連絡会の抗議声明 原発井戸端会議神奈川ネットワーキングニュース2021年1月号掲載記事から 安全軽視を繰り返す関電と規制委員会に重い課題東電に代わって電力業界で原発推進を牽引するはずだった関電があえいでいる。2020年11月4日に大飯4号炉が停止して以来、稼働する原発ゼロの状態が2021年1月中旬まで続いた。関電が相も変わらず安全性を軽視していることを示したのが、大飯3号炉のひび割れをめぐる経緯だ。今までにあまり例のない加圧器と一次冷却水配管の溶接部に長さ67ミリ、深さ4.6ミリの亀裂が見つかりながら、次回の定期検査まで大丈夫と勝手に判断して2020年9月に再稼働しようとした。 2020年4月から施行された新しい定期検査制度を悪用して自社の都合のいいように稼働ゼロを回避する計画は、さすがに原子力規制委員会からたしなめられて配管交換に追い込まれた。 全ての耐震設計審査をやり直すべきその原子力規制委員会のあり方を徹底批判したのが、大阪地裁である。2020年12月4日、大阪地裁は、大飯3,4号炉の耐震設計について「原子力規制委員会の調査審議及び判断の過程には、看過し難い過誤欠落がある」として、設置許可を取り消した。国が同月17日に控訴したため判決は確定せず、再稼働することは法的には可能であるが、関電には重い課題として圧力になり続ける。審査の過程でやっていないことをやったことにすることはできず、論理的には判決を覆す材料がないからである。このことは大飯3,4号炉にとどまらず他の原発や原子力施設についても当てはまるので、詳しくみていこう。 大飯3,4号炉設置許可取り消し訴訟は、原発近傍の3断層が連動して動いた際に重大事故を免れないなどとして2012年6月に提訴された。8年間に及ぶ審理の中で、2020年1月になって裁判長が、地震動審査ガイドの振動特性パラメータ設定の条項に、福島事故後に「経験式は平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するばらつきも考慮されている必要がある」と追加されたことに気づいて、ばらつきを考慮しても設置許可基準を満たすことを示すようにと国に指示を出した。 活断層がずれて引き起こされる地震の場合、大きな断層ほど大きな地震を引き起こす。そこで、過去の地震を調べて断層面積と地震規模の関係を示しているのが経験式だ。いくつかの式がある中で、入倉三宅式の場合過去53個の地震をもとに式が導かれている。この53個のうち日本の地震は4個に過ぎず、日本の地震だけをもとにした武村式よりも過小評価になることが知られている。また、島崎邦彦氏が原子力規制委員会を退任後に、過小評価であると自らの審査を否定したことから大きな問題となった。 ![]() いずれにしても断層面積と地震規模は一直線の式で比例するようなものではなく、ばらついているデータから比例関係を最小二乗法で近似して示しているに過ぎない。式が示すのは平均値であるので、裁判長はばらつきを考慮して少なくとも標準偏差を考慮するよう求めたのだ。そうすると許可を受けた856ガルではなく、1150ガルで耐震設計を検討する必要が生じる。 国は地震規模から基準地震動への計算の過程で不確かさを考慮して、1.5倍とする余裕を見ているので、ばらつきの考慮は必要ないと主張したが、判決で一蹴された。「『余裕を持った設計』がされていても、基準地震動の策定は適切でなければならない」「複数の断層の連動や断層面積を大きく設定することは、地震規模のばらつきの考慮とは異質なもの。相互に補完するものではない。審査ガイドでも区別して定められている」 要は自らが審査ガイドで決めたばらつきの考慮をやっていないという単純な問題だからである。12月9日の原子力規制委員会で、担当の石渡委員は審査ガイド冒頭の審査をこのようにやりますというフローチャートにばらつきの考慮が記載されていないという驚くべき発言をしている。ガイド本文で求められている審査を、安易にフローチャートに従って失念したことを白状したようなものだ。 原子力規制委員会は、自らの誤りを認めて、新規制基準適合審査をすべてやり直すべきであり、それまでの間、運転停止を命ずるべきだ。 |