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雑誌「季節」2025年冬号掲載 エネルギー基本計画が暮らしに与える悪影響岸田政権のＧＸ基本方針岸田政権の時、2023年2月に「ＧＸ基本方針」が出来た。地球温暖化に対抗するために社会の在り方を変えなくてはならないと作られた方針の中に、なぜか原発が入って「原発回帰」となった。岸田さんは首相になったとき何がやりたいのかわからないと言われていたが、辞めたあと振り返り「原発は頑張った」などと言っていた。なぜ頑張れたかというと、首席秘書官の嶋田隆という人が元経産省事務次官で原発政策の総責任者、東電の取締役執行役でもあった。その首席秘書官が原発政策を取り仕切ったといわれている。彼は、岸田政権を辞めたあと、ＴＭＩ総合法律事務所という東電の仕事を引き受けたり最高裁に判事を出したりする原子力ムラと深く繋がる大手弁護士事務所の特別顧問になっている。岸田政権のＧＸ基本方針で一番問題だったのが、老朽原発の運転延長です。福島原発事故を起こしたのが老朽炉だったので、原子炉等規制法で原発の40年運転、一回限りの例外的な延長で最大6０年にしようとされていた。電気事業法にこの規定を移し、原発の停止期間分は入れないことにして、60年よりも運転できるようにと法改正をした。その法律が2025年6月6日に施行された。長期に停まっているということは、規制委員会の新規制基準に合格しない原発、活断層が疑われ審査が長引いている、そういう危険な原発ほど長く運転できる。 原子炉等規制法は規制委の所管で、規定を経産省所轄の電気事業法に渡すということは、公務員にとっては自分のシマを明け渡すようなもので、普通はやらない。ではなぜやれたのかというと、結局エネ庁、経産省が規制委を言いくるめる段取りを周到にやって、権益を全部自分たちのシマに取り込んだわけです。 エネルギー基本計画策定過程の問題次の石破政権の2025年2月18日に閣議決定した「第七次エネルギー基本計画」では、更に原発回帰が鮮明になった。エネルギー政策基本法にエネルギー基本計画を作りなさいと書いてあって、法律に策定根拠がある。このエネルギー政策基本法は、閣議決定で国が作った法律ではなく、国会議員の提案でできた法律です。提案の中心になったのは自民党の加納時男という東電の副社長だった議員。原発は国策としてずっとやられてきたが、安くないこともわかり電力会社にとってもお荷物になってきた。そこで、国策でやってきたのだから、ちゃんと国で面倒みろと電力は法律で定めたかった。それをやったのがエネルギー政策基本法。かつては「原子力政策大綱」や「長期エネルギー需要見通し」などがあったが、現在はそれらがないので、エネルギー基本計画が国の原子力政策の唯一の計画になっています。法律には3年ごとの見直しの規定や、経産相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて作るという規定になっている。第七次の議論は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で2024年5月から計14回行われている。委員は産業界7人、大学教授5人、研究所1人、消費者団体2人と福井県知事という構成です。2024年5月15日第一回会合では、15人が意見を述べたが、原発推進の意見を述べたのが8人、慎重論は1人だけでした。しかも、会合では各委員が数分の制限時間内で言いたいことを言い、その後に役人がコメントするだけで、議論が成立しない。これまでとは桁違いのパブコメ意見も寄せられたが、その後分科会が開催されず、意見はほとんど反映されずに決まってしまった。 そこで私は、1998年に採択され、2001年に発効された「参加原則に関するオーフス条約」の話をするようにしている。環境に関する政策を決めようという時に、そのもとになる情報に市民がアクセスできる「情報アクセス権」、決定に参加する「決定への参加権」、さらに政策に問題があったら司法に訴えることができる「司法アクセス権」の3つの原則が掲げられた条約で、ＥＵなど48の国と地域が批准していますが、残念ながら日本は批准すらしていない。この条約に批准しましょうと迫っていくことも大切かと思います。 原子力の位置付け
第五次エネルギー基本計画では「可能な限り原発依存度を低減する」とあった。第六次では「可能な限り原発依存度を低減する」に加えて「必要な規模を持続的に活用していく」と矛盾することが書かれている。しかし、第七次では、その「可能な限り原発依存度を低減する」が削除され、「原子力などエネルギー安全保障に寄与し、脱炭素効果の高い電源を最大限活用することが必要不可欠である」と変わった。その理由が「AIで電力需要が伸びる」からだといわれている。需要が爆発的に増えて原発をじゃんじゃん建てないといけないように印象操作されている。確かに電力会社が会員である電力広域的運営推進機関の将来推計では、2021年頃は将来的には需要が減るといっていたが、2023年には右肩上がりで増えるとなった。しかし、需要が多少増えたとしても、2012年当時の需要を上回らない予想です。 第六次までは目標年度が2030年度、第七次では2040年度に伸びたが、原発、再エネ、火力含めて目標数字はほとんど変わらない。原子力の目標を詳しくみると、第四次、第五次では原子力の割合は2割程度だったが、今回は目標年度が10年延びたが2割と変わらない。結局、政治的な配慮から上げることも上げることもできない。上げたら市民が反対するし、下げたら産業界が文句をいうからです。  次に2040年に2割は達成可能かどうか考えます。2040年の発電電力量は1.1〜1.2兆kWhとされて、その2割だと2200〜2400憶kWhの原発の発電量が必要です。 今、再稼働している原発は14基、規制委の許可が下りたが地元合意が取れず稼働していない原発が4基、審査中が8基、未申請が10基です。再稼働している14基のうち高浜1,2号は2040年に60年を超えるので、それを除いた12基の総出力は1077万ｋW、稼働率70％とすると660億kWh 。2200〜2400憶kWhに全然足りない。基準合格で未稼働や審査中を足しても1410憶kWhと半分にもならない。未申請の10基、そのなかの敦賀2号は先日審査不合格となったし、柏崎1,2号は廃炉になると報道されている。それらを全部足しても2072憶kWh、まだ2200憶kWhにはならない。 どうやっても実現できない。経産省の役人ができると思っているはずがない。実現できないことを承知で、政治的配慮で矛盾を先送りしている。電事連は「政府目標を達成するためには、原発5基分の建て替えが必要」という試算をしていて、今のままだと達成できないと認めている。 原発の新設は可能かではその原発の新設について何と書いてあるか。岸田政権のGX基本方針では、「廃炉を決めた原発の敷地内に建て替える」だった。第七次エネ基では、「廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での次世代革新炉への建て替え」となった。九州電力は玄海原発１，２号炉を廃炉にしているが、そこには敷地はない。しかし、川内原発には３号炉用の敷地があるので、新設の対象に加わった。九州電力の社長に就任する西山常務は「具体的な検討はまだ」と会見で述べていて、安心していたら、関電が7月に美浜原発で新設に向けて調査すると言いだした。しかし、今、原発を新設するにしても完成して稼働するまで20年以上かかる。だから2040年に原発が5基必要だとしても間に合わない。どれくらいお金がかかるのか。総合資源エネルギー調査会発電コスト検証WGは日本で原発1基新設した場合、7203憶円と試算している。しかし、フランスで最近建設された原発で2兆円、イギリスで準備中の原発では3兆円。もっと上振れする可能性がある。関電が美浜原発で新設しようという時、3兆円の資金を調達できるかというとできない。銀行も完成が20年先のものに融資しないだろう。 そこで関電は「国で保証してくれ」と要望し、国が動き出したのが「脱炭素電源オークション」という制度です。私たち消費者が電気料金を払う時に一定プールされるお金で、脱炭素電源に20年間固定費を支援しようという美味しい制度で、そのCO2を出さない発電に原子力も混ぜられた。次の入札から、建設費や運転維持費が上昇した場合に当初価格の1.5倍を上限に、その費用の9割を電気料金で負担するという制度に変えようと決まった。 これを受けて関電は美浜の調査を始めるが、関電社長はこれでも足りないとしている。事業環境整備、つまり国がどれだけ金を出してくれるか見極めて、決めるのは2030年の調査終了後の数年先という。 現実に日本で原発関連の仕事は廃炉作業以外ないわけで、川崎重工業、住友電気工業、古河電気工業、甲府明電舎、ジルコプロダクツなど、毎年５社平均で原子力事業から撤退している。斜陽産業で衰退することが決まっている原子力産業に幾ら税金をつぎ込んでも無理だと思う。 こういう計画は大体前例を踏襲してつくられるので、第六次エネルギー基本計画と第七次の目次を比べてみると、第六次の目次には「2030年度におけるエネルギー需給の見通し」があるが、第七次には対応する個所がない。本文に書かれていない。エネ庁のサイトをみると、エネルギー基本計画の関連資料としてあげられている。「達成できない」と先ほど言ったが、責任逃れの布石だと思います。 核燃料サイクルの破綻エネルギー基本計画の原子力関連で一番酷いのは再処理やプルトニウムの問題です。六ヶ所再処理工場は1993年に着工し、その後27回も竣工が延期された。現在の目標は来年度に竣工し、2027年度下期の操業開始となっている。第七次エネ基の中に「核燃料サイクルの中核となる六ヶ所再処理工場とＭＯＸ燃料工場の竣工は、必ず成し遂げるべき重要課題であり、同工場の竣工に向け、審査対応の進捗管理や必要な人材確保などについて、官民一体で責任を持って取り組む」とあります。再処理工場は「日本原燃」という民間会社がやっていて、その会社が規制委に審査を求めている。その進捗管理を「官民一体でやる」とはどういうことか？ 実は、この一文は、福井県知事に向けられたものです。官民一体で取り組んでいるのが「使用済燃料対策推進協議会」という組織で、経産大臣と電力各社社長がメンバー。直近では10月9日に幹事会が開かれた。 使用済み燃料を入れてあるプールが、もうすぐ満杯になる。高浜は3年持たない、大飯も4年で満杯になる。福井県はもともと原発を建てるときに関電から「ゴミ(使用済み核燃料)は県外へ運び出す」と言われたから建設を認めた経緯がある。知事は六ヶ所へ運び出すまでの中間貯蔵施設を県外のどこに立地するか関電に早く決めろと要求しており、関電は「2000年までに決める」「2020年までに決める」と言い続けたが、出来なかった。2021年には「2023年末に確定する。決められなかったら美浜3号など3つの原発を止めます」とまで言って来た。でもできなかった。期限がくる直前の2023年10月に「使用済燃料対策ロードマップを作りました。これで許してください」と言って来て、知事に了承してもらった。 ロードマップには、六ヶ所再処理工場に運ぶとあったが27回目の操業延期で1年持たずに破綻してしまった。そこで2025年2月に二度目のロードマップを示した。六ヶ所処理工場が2027年度から再処理が出来るようになって、関電は翌年から六ヶ所へ搬出できる。高浜にはMOX燃料（プルトニウム混合燃料）があるので、その再処理は六ヶ所でできないからフランスへ運び出す。中間貯蔵施設は、場所はわからないが、2030年頃には操業できるはずだと。最後に、美浜や高浜、大飯原発の敷地内にプールではなく、容器に入れて乾式貯蔵しますと言って来た。 六ヶ所再処理工場は、2026年度中の竣工のためには2025年度中に設工認と呼ばれる審査を終了する必要があり、7月末までに説明を終える予定だった。説明の一部が11月まで遅れ、更に先日9月29日の審査会合では「11月までの説明は難しい。あと3回程度の審査会合が必要」と言い出した。知事は「誠に残念」という状態。8月5日の審査会合では、規制庁から「マラソンで言えば折り返し点にも達していない」と指摘され、いつ審査が終わるかわからない。国が責任もって審査の進捗管理をするといっていたが、どんどん遅れている。 敷地内乾式貯蔵の欺瞞そもそも再処理工場で使用済み核燃料から燃え残ったウランとプルトニウムを取り出し、プルトニウムを高速増殖炉で使えばエネルギーが膨大に増やせるという夢物語だった。ところが高速増殖炉「もんじゅ」は破綻した。プルトニウムを取り出す目的がなくなっている。プルトニウムを普通の原発で燃やすプルサーマルでは、4つの原発で年0.38トンしか消費できていない。六ヶ所再処理工場でフル稼働すると、年6.6トン生産できる。しかし、長崎原爆の材料であるプルトニウムを沢山持つことは許されない。原子力委員会ですら2018年に「プルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理が実施されるよう認可を行う」と基本的な考え方を改定した。六ヶ所再処理工場ではフル稼働はできない。そうすると六ヶ所の受け入れプールには空きができない。そこで関電は、敷地内に乾式貯蔵を作りたいと言って来た。伊方原発などでは敷地内に建屋を作って貯蔵容器を置いているが、関電の計画は、外に並べた容器の周囲をコンクリートパネルで覆うだけ。福井県は安全協定にもとづいて、建設前に知事がOKする条件として、「立地地域の振興や課題解決に向けた取り組み」など４条件をあげている。地域振興では、関電は毎年基金に拠出するという話をしているが、原発の稼働率がゼロになったら払わなくてよいという仕組みになっている。 「具体的な搬出時期の考え方」では、8月29日に関電が「2035年までに搬出します。できなかったら、またプールに戻します」と言って来た。「乾式貯蔵の方が安全と言いながら、プールに戻すとは何事だ！」と県議会などが大反発した。すると関電副社長は「それだけの覚悟を示した」などと言う。前のように「原発止めます」というならともかく、なぜプールに戻すことが覚悟になるのかと大反発され、9月に知事は「規制委の審査対応の状況を確認したうえで判断することとしたい」と判断を先送りした。その先送りした結果が、「審査会合の説明は11月末には終わらない」となったので、関電は綱渡り状態です。 そして、昨日10月10日、関電はこの乾式貯蔵の建設完了年次を1年先送りし、2028年になると知事に伝えた。もうその頃だと、高浜は満杯。フランスに運ぶことで満杯を回避できるかもしれない。でも大飯は2028年に満杯になる可能性があり、そのとき乾式貯蔵が出来てなかったら、原発はフン詰まり停止に追い込まれる可能性がでてきた。現在そういう状況なので、暗い話ばかりではない。 暮らしへの影響は原発を続けた場合は、電気代の高騰が避けられない。ご存知のように原発は発電単価が断トツに高い。太陽光などはど〜んと下がっている。2004年に経産省の若手が「核燃料サイクルは見直すべきだ」、そして六ヶ所再処理工場が試運転する前だったから「今だったら止められる」という怪文書をまいた。当時で六ヶ所再処理工場の建設費が6900億円から2兆2千億円に増えてますよ、こんなことを続けていたら国民の負担が大変ではないかとあった。しかし、現在、建設費は5兆3600億円とさらに倍以上に上がっていて、総事業費は18兆円。毎日新聞の大島記者は2025年1月に再処理以外も加えて「核燃料サイクル事業費、工場未完成でも22兆円超 さらに膨らむ見込み」という記事を書いている。軍事的な問題もあります。日本が今持っているプルトニウムは約44トンで世界で5番目。北朝鮮などと比べても桁が違う。こんな状態でいいんですか。 さらに問題は、原発に頼っていると温暖化対策が手遅れになるということです。第七次エネルギー基本計画には、石炭火力の廃止は盛り込まれず、「非効率的石炭火力のフェードアウト」との記載のみになっている。火力発電についてはCO２排出をほぼゼロにする必要が生じるが、実用化されていない水素・アンモニア専焼、CCS(CO２貯留)付火力発電を見込むなどとしている。ヨーロッパ各国は石炭火力発電の廃止時期が既に決まっている。 エネ基と同時に「地球温暖化対策計画」も閣議決定され、「日本の温室効果ガス排出削減目標」が決められ、2035年度に60％削減とされた。しかし、NGOは「もっと高い数字にするべき」と批判した。かつて温暖化防止の目標は昔より2度気温が上がるのをストップしようだったが、「2度では生ぬるい。1・5度に抑えるように頑張らないとだめだ」というのが今の国際的合意になっている。環境庁が1・5度に抑えるために必要だと示す削減量に比べて、60％削減はぎりぎりの値だ。辻褄をあわせているに過ぎない。これも結局原発に偏重しているからです。  再エネの目標もエネ基には書かれていて、第四次、第五次では22〜24％、第六次で36〜38％、第七次では４〜5割となり、少し増えた気がするかもしれないが、第六次までは「再エネに最優先の原則で取り組み」と書いてあったが、第七次ではこの「最優先の原則で取り組む」が消えてしまった。2040年に4割を目標にすると、ヨーロッパの現状値より低い。 そういう低い目標のもとでやっているからどうなるか。2007年のソーラーパネルの世界シェアは、トップがシャープで12％、京セラ7％、三洋電機5％と日本の企業が頑張っていたが、今や中国が84％、日本は0.1％しかない。風力も毎年9％の成長で増えているが、世界の企業を並べてみるとほとんど中国。日本に大きな風力発電が回っているが、国内生産はひとつもない。全部ヨーロッパからの輸入です。  エネルギー基本計画で一番の成長産業である再エネに力をいれて開発していないから、こんなことになっているのではないか。日本のＧＤＰは2010年は世界3位でしたが、2025年は5位です。成長率をみると、ヨーロッパやアメリカはどんどん右肩あがりに伸びてますが、日本はずっと横ばいです。だから、原発推進では、電気代が高くなるとか、放射能の危険性があるなどの心配もあるが、将来、日本の経済がどんどん没落していくことになる。そういう心配があります。 自然エネルギーというのは、中小規模、分散型なので、それらをやることによって、地域にお金が回る。石油を買うのに外国にお金を払うのではなく、そのお金が地域で回る。原発と違ってそういう未来がある。そこに力を注いでいく必要があります。現実に今や太陽光が発達しているので、原子力の電力なんて必要ありません。昔は夜間の電力が余るから、夜間の電力を使おうといってきたが、今、太陽光で昼間の方が電気が余る。昔と全然変わってきている。 第六次基本計画が出来るときに私もメンバーになって原水禁で検証作業をやって「原水禁エネルギー・プロジェクト提言」を作りました。各業界が出している数字を足していくと、2050年に原子力も石炭も石油も全部なくして、風力、太陽光、地熱バイオマスでやれると予測しています。だから、地域からの政策のかじ取りでそういう方向に向かっていこう、やればできる。それを達成できるように、今日行った学習会の話をみなさんで広めて、なんとか頑張っていきましょう。 |