日本消費者連盟関西グループ発行「草の根だより」2024年4月号掲載記事に加筆

高レベル処分文献調査報告書案から見えてきた基本的問題

高レベル放射性廃棄物処分場選定の第１段階、文献調査が北海道寿都町と神恵内村で始まったのが2020年11月。当初2年間程度と言われていた調査は、総合資源エネルギー調査会の地層処分技術WG で、NUMOが集めた文献の「評価の考え方」の議論が行われて、調査結果とりまとめまで時間がかかりました。

ようやく文献調査報告書の案文が示されたのは、調査開始から３年余りが経過した今年の2月13日、改組された第1回地層処分技術WGの場でした。そもそもWGは経産相の諮問機関で、NUMOの報告書作成にアドバイスするのは筋違いです。しかし、「評価の考え方」が報告書案に適切に反映されているかどうかの議論が始まりました。この議論、いつまでかかるか見通せず、報告書案からいつ案が外れるのか分からない状況です。

報告書がまとまると縦覧、住民意見募集の後に、概要調査地区を書き込んだNUMOの実施計画変更申請が行われます。この時に鈴木北海道知事が概要調査に進むことに反対する旨を公言しているため、できるだけ時間稼ぎをしているものと思われます。高レベル対策が進んでいるように見せるために進行中の案件が必要だから、第３の地区の手が上がるのを待っているのです。

さて、報告書案の結論は、寿都町では全域で、神恵内村では積丹岳から15kmの範囲を除く、泊村との境界付近の一部が概要調査地区になるというものです。

第四紀（現在から約258万年前まで）に活動した火山から15kmの範囲を不適とするのは、2017年に国が適地を示すとして公表した「科学的特性マップ」の考え方で、文献調査をやる前から神恵内村の大部分が不適であることは分かっていましたから、新たに不適になった場所はないことになります。

ところで、文献調査報告書案では、村内適地に近い熊追山について「第四紀の活動に伴う火山噴出物である可能性を否定できないものの、活動年代を示す情報が見られず、具体的な活動時期は判明していない。」「『熊追山』は、第四紀の火山活動であることが確認できた場合には…評価について検討する必要がある。」としています。

熊追山が、該当火山であれば神恵内村は全域不適となります。該当火山と確定しなくても「否定できない」のであれば安全側に立って不適とすべきです。

＊既存の5文献が第四紀火山の可能性を指摘していましたが、岡村聡北海道教育大学名誉教授らが自主的に熊追山の年代測定を行ったところ、496±15万年前という結果になり、第四紀火山でないと分かりました。

国の審議会に反対意見参考人

3月29日に開催された第2回技術WGには、300人を超す地質学者らの「世界最大級の変動帯の日本に、地層処分の適地はない」という声明の呼びかけ人である岡村聡北海道教育大学名誉教授ら３人が参考人として出席しました。上部委員会である特定放射性廃棄物小委員会の委員である原子力資料情報室の高野聡氏の尽力で実現したもので、そのこと自体画期的ですが、反対の意見も聞いたというアリバイにされないようにしないといけません。

岡村さんらは、声明の説明に呼ばれたのですが、文献調査報告書案について次の問題点を指摘しました。

①脆弱な岩盤特性
	両地域は海底火山の水冷破砕岩からなり、脆く、透水性が高い。概要調査でボーリングをしても不均質な岩盤の把握は困難。
②活断層の除外
	確認されている活断層長さの100分の一程度の幅を除外するだけでは不十分。活断層が確認されていないところでも、しばしば大きな地震が発生している。
③深部流体起源の地震と活断層帯への連動
	能登半島の群発地震は、マントルから上昇した流体が地震を引き起こしている。寿都湾付近では、地下10kmと30kmを震源とする地震が頻発しており、深部流体が原因されている。「新たな火山の可能性」に限定した一面的な評価だけではなく、能登半島地震による最新の知見を反映し、黒松内低地断層帯に連動して大地震を起こす可能性を考慮すべき。

これら意見に対し、国とNUMOが見解を示しましたが、総じて概要調査に進んだらそこで検討するというものでした。委員からは感想コメントが述べられたものの、科学的に議論が深められるということは、残念ながらありませんでした。

しかし、この日の3つ目の議題「文献調査報告書（案）で整理する概要調査等での留意事項の考え方について」では、委員から
「文献調査から概要調査に進むためには、地層の著しい変動のおそれが少ないと判断できることが求められているが、NUMO の言う取得が望ましい情報の整理だけでは不十分である。概要調査に進んだ場合に、将来の著しい変動の有無を判断出来るかを示しておく必要がある。」
「各調査段階で、判断に足る十分な情報が得られなかった場合の考え方を整理しておく必要がある。」
「地下深部の事象に関連する事項は、調査の段階が進んでもクリアにならない可能性がある。分からないまま、曖昧なまま進んでよいのかを検討してほしい。」
などと厳しい意見が続出しました。

概要調査は、その地区内で数百mのボーリング調査をするというものですから、地下深部の状況が分かるはずもなく、調査地区外の熊追山が該当火山かどうかも分かりません。

案が取れたときに市民意見の募集がありますから、その時に備えなければなりませんが、今まで明らかになったことは、文献調査報告書案の出来不出来の問題ではないと思われます。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

・	結局、文献調査はNUMOが地域に常駐して、「対話の場」を進めることで、地域工作をする期間に過ぎなかった。
・	本来３段階の調査が設けられているのはふるい落としのためだが、調査をやっていることが原発再稼働にとって必要なので、ふるい落としは行われず、引き延ばしされる。
・	そのため、処分場の適性に疑問の情報が出てきても、確定しなければ（分からなければ）次の調査で調べればいいと結論付けされる。
・	適性に疑問の情報が出てきても除外しないのは、安全軽視に他ならず、NUMOに地層処分事業の実施主体の資格はない。
・	NUMOのそのような姿勢を許しているのは、不当な「評価の考え方」を示した国の責任。

といったところでしょうか。

奇しくも、対馬で断られた第３地区立候補の動きが佐賀県玄海町で顕在化しました。町議会へ請願が出されていたことが報道されてからの素早い国の動きから、水面下で工作していたことがうかがわれますが、玄海町は「科学的特性マップ」で全域が「好ましくない特性があると推定される」地域です。「詳細に調べてみないとわからない」とエネ庁が議会で説明しているのを見ると、寿都、神恵内同様のことが繰り返されると懸念されます。

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